今回の記事は、まじめにSPXL投資をしている人、もしくは考えている人向けです。
SPXLは、S&P500の日変動の3倍の運用を目指すファンドです。
ですが、まじめな人は次のような疑問を持つと思います。
「SPXLは本当にS&P 500の日変動の3倍で運用されているの?」
「SPXLは、S&P 500の日変動の3倍から乖離して、理論値よりも悪いパフォーマンスにならないの?」
そんな疑問に対して、私もまじめに突っ込んだ解析をしたので、本記事で紹介したいと思います。
マニアックな記事になることをどうかご了承ください(笑)
そもそもSPXLとは?
この記事を読んでいる人にはもはや説明不要かもしれませんが・・。
SPXLとは、S&P 500の日変動の3倍に連動することを目指す、アメリカのETFです。
世界でも日本でも人気が高い、レバレッジETFの王道です。
SPXLは本当に3倍?という素朴な疑問
私のポートフォリオの大部分はSPXLでして、SPXLの株価を確認するのは私の日課になっています。
私のように、SPXLのようなレバレッジETFを保有し、定期的に株価を確認する方なら、
「運用成績が、ベンチマークとなる指数の日変動の3倍になっていない!」
ということに気が付くと思います。
レバレッジETFは、運用の性質上、もとの指数のぴったり倍にはなかなかなりません。
SPXL保有者からするとこれは、リスクです。
ではそのリスクはどの程度のものなのか、気になりますよね。
「トラッキング・ディファレンス」という概念
ちなみに、ETFの運用成績とベンチマークとなる指数の乖離は、トラッキング・ディファレンスと言います。
トラッキング・ディファレンスとトラッキング・エラーという用語を混同して使っている人もいますが、下記の通り明確に違います。
トラッキング・ディファレンス | ETFのリターンとベンチマークとなる指数のリターンの差 |
トラッキング・エラー | トラッキング・ディファレンスの年換算の値の標準偏差 |
難しいと思う人は「トラッキング・ディファレンス」だけ覚えてください。

分析条件
期間
SPXLの運用が開始された2008年11月5日から2020年8月4日
対象
SPXLとS&P 500の推移を分析します。
比較対象としてIVV(S&P 500に連動するETF)とS&P 500の推移も分析します。
ETF | 指数 | 経費率 | 運用会社 |
IVV | S&P 500 | 0.03% | Black Rock |
SPXL | S&P 500日変動の3倍 | 1.01% | Direxon |
分析方法
次の2つの数値の推移を比べました。
①ETFの理論上の日変動
例えばSPXLの場合:
S&P 500の日変動×3 – 経費率の1日分
②ETFの実際の株価の日変動
①と②の差が小さければ小さいほど、目標通りの良い運用をしているということです。
ちなみに、一般にトラッキング・ディファレンスには経費率が含まれます。
しかし、本記事の分析では、経費率がある前提でベンチマークと実際の運用の乖離を比較したかったので、①の数式のような考え方で「ETFの理論上の日変動」を算出し、トラッキング・ディファレンスを算出しています。
分析結果
理論値VS.実際
まずは、
①ETFの理論上の日変動(横軸)
②ETFの実際の株価の日変動(縦軸)
を散布図で比較しましょう。

赤点がSPXL、青点がIVVです。
対象期間の1日ごとの結果をプロットしています。
S&P 500に対し、IVVは1倍なのでプロットされるレンジが狭く、SPXLは3倍なのでプロットされるレンジが広いです。
傾き45°の黒線が、①ETFの理論上の日変動=②ETFの実際の株価の日変動、つまりは理想的な運用です。
グラフをよーく見ると・・
・IVV(青点)は45°の黒線にぴったりのっかっています。
・SPXL(赤点)は45°の黒線から少し離れた場所のプロットがあります。
これがトラッキング・ディファレンスです。
トラッキング・ディファレンスを統計
次にそのトラッキング・ディファレンスの確率密度分布をみてみたいと思います。
このグラフでは横軸0.00が、「①ETFの理論上の日変動」=「②ETFの実際の株価の日変動」つまりは理想的な運用を意味します。
・IVV、SPXLとも横軸0.00を頂点とした山が形成されています。
・IVVの方が高い山、すなわち「①ETFの理論上の日変動」、「②ETFの実際の株価の日変動」が近い値になりやすい、ということです。
・SPXLの方がすそ野が広い山、すなわち「①ETFの理論上の日変動」に対して「②ETFの実際の株価の日変動」がばらつきやすい、ということです。
トラッキング・ディファレンスの統計値
次に、トラッキング・ディファレンスの統計値を表にまとめました。
A平均値、B標準偏差、C絶対値の平均値をまとめていますが、いずれも0に近づくと「①ETFの理論上の日変動」=「②ETFの実際の株価の日変動」つまりは理想的な運用に近づと言えます。
こうして比較しても、SPXLはIVVよりもトラッキング・ディファレンスが発生しやすいと言えます。
興味深いのが、SPXLのトラッキング・ディファレンスは正の値であったということです。
これはつまり、ベンチマークから期待されるよりもSPXLの運用成績の方がよかったということです。
当然ながらトラッキング・ディファレンスによって運用成績を悪くすることもあれば、よくなることもあります。
「ベンチマークから期待されるよりもSPXLの運用成績の方がよかった」というのはあくまでたまたまです。
表のD欄を見ると、SPXLの年間のトラッキング・ディファレンスの平均値は2%程度です。
これを大きいと考えるか、小さいと考えるかは難しいですが、SPXLの年リターンの中央値は20%程度ですから、それに比べると小さいかなと私は思います。
理論上と実際の株価推移
最後に、次の条件でSPXLの推移をみてみましょう。
①理論上の推移(トラッキング・ディファレンスなし、経費率あり)
オレンジ線
②実際の推移
赤線
対象期間は、SPXLの運用が開始された2008年11月5日から2020年8月4日です。
比較のためにS&P 500とIVVも掲載しています。
予想された通り、SPXLの運用結果は、トラッキング・ディファレンスにより、理論上のSPXLの値を上回ってしまっています。
IVVは、きれいにS&P 500をトラックしており、優秀ですね。
今回の記事の趣旨からすると蛇足ですが、コロナの影響があっても、SPXLは十数年で10倍程度の株価になった魅力的なETFです。
まとめ
私が重要だと思う結果を整理すると次のとおりです。
・SPXLの年リターンの中央値は20%程度
・SPXLのトラッキング・ディファレンスは年2%程度
・トラッキング・ディファレンスは、リターンと比較して小さく、運用成績にプラスに働くこともある(ここ十数年はそうだった)。
・ゆえに、SPXLのトラッキング・ディファレンスはあまり気にしなくてよい。
記事の冒頭の疑問
「SPXLは本当にS&P 500の日変動の3倍で運用されているの?」
「SPXLは、S&P 500の日変動の3倍から乖離して、理論値よりも悪いパフォーマンスにならないの?」
の質問には、私なら
「SPXLの運用は目標から少しずれるけど、大きな影響はないよ!その点で心配する必要はないよ!」
と答えます。
この記事が、SPXL投資を踏み出す読者のみなさんの一つのきっかけになれば幸いです。
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